余談 たとえ話

 

最近、晋助の様子が変だ。と、万斎は思う。

いや、正直に言うと、細かくは3ヶ月ほど前から変だった。

だが、その変調はとても微妙で、

多くの主要メンバーは気付いていない。

隊員に至っては全く分からないだろう、違和感。

 

2ヶ月前に一度、スナックお登勢に偵察に行ってきた。

収穫といえば、

桂がやはり白夜叉の子を身ごもっていたこと。

そしてそれを、かたくなに晋助に隠していること。

そのため、晋助との連絡を絶っていること。だ。

だが、晋助には、その時点ではまだ桂が女であることしか報告していない。

それだけで、あの人はきっと全てを悟ったろう。

わざわざ桂が連絡を取らなくしても、

聡いあの人は気付いてしまう。

 

そして、その後、贈ったはずの990両が、返金されてきた。

 

自分の愛する女と愛する息子。

その二人が女の愛する者と暮らしている。

そこに、女の愛する者の間に出来た子が加わる。

 

危ういバランスで経っていた柱が、軋んで、

傾いていくのを感じる。

晋助の奏でるメロディに、最近は不協和音が混じっている。

なんとかしなければ。

 

そう思っていたある日。

 

突然に、晋助が言い出した。

朝食の後で。

「おう、来島。聞きたいことがあるんだが」

「はいっ!なんっすか!」話しかけられることがまれなので、また子は嬉しそうだ。

「てめえ、武市のことどう思う?」

「えええええ???何すか?いきなり!きもいっす!近寄って欲しくないっすよ!」

「何ですか、あんた。私だって貴方のような猪女ごめんですよ」同じ部屋にいた武市がすかさず言う。この二人の折り合いが悪いのは有名だ。

「じゃあよ、好きな奴はいるか?」

「私の好きな人は晋助様っす!!!!・・・あっ」ぽーっとなって、言っちゃった!みたいな顔をする、また子。可愛い。・・・可愛いけど、

なぜそんなことを言い出すのだ、晋助。

 

「ちっと、たとえ話につき合ってくれや」

「いいっすよ!!」

「じゃあ、例えばよ、・・・そこの武市にてめえが犯されて」

「えええええ〜〜〜!!!突然、なんて事言うンすか!!きもいこと言わないでほしいっす!!!!そんなの無理!!死んじゃう!!」

「うるさいですねえ。私だって貴方のような猪女ごめんでだって言ってるでしょう!!」

イラッとしたのか、晋助が、低い声で

「聞け」

と言えば、しんとなる。

「・・・武市に犯されて、てめえにガキが出来たとする」

あっ・・・なんかわかったかも。だけど。・・・。

「はあああ??!!超嫌っす!!もう無理!!想像もしたくない〜〜!!うあ〜〜!!」

「じゃ、もういい」また、イラっとしたのか、素っ気なく言うと、また子はたまらない。

「すみませんでした!!聞きます!聞きます!聞きますから、お願いですから、怒らないで下さい、晋助様ぁ〜」

そう、見放されるほど、つらいことはない。この人に。

「・・・じゃあよ、その武市の子を身ごもったお前が、お前の好きな奴・・俺と、結婚したとすらぁな」

「はっっ!!!!晋助様と結婚・・・・っ!!!!」カアアーーーと、顔が赤くなる。ほんわか〜・・・と、幸せそうに笑っている。

「で、俺が、構わねえから、産め、といったら、お前どうする?」

「産むっす!!嫌だけど、晋助様が産めというなら産むっす!!!」ぐっと、握りしめた腕を押し上げて、ガッツポーズ。

「おう。で、かわいがれんのか?」

「分かんないっすね・・・産んだことないし・・・元々あんまり子供好きじゃないし」

「・・・そうか。ま、そうこうするうち、俺との間に子供が出来たとする」

「ええええ!!!まじっすか!!嬉しいっす!!超幸せっす!!」また、赤くなる。

「てめえならどうする?産むか?」

「もちろんっすよ!!!産む!!で、晋助様と幸せにくらします!!」今にも、踊り出しそうだ。

「武市との子はどうする」

「え?・・ああ、あーー」ちらっと、武市を見て、うう、ゾーッとした顔をした。

「邪魔っすよね。捨てちゃいたいっす」

その瞬間、

「!!!!!!」

ガタッと席を立って、部屋から去っていってしまう。

「え?あ。・・・なんで・・・晋助様ぁ〜!私、何か行けないこと言ったっすか・・?どうしよう、何が正解だったっすかね。何の心理テストだったんだろう。

女として、心の狭い女と思ったっすか・・・あああ、どうしよう・・・」泣きそうな、また子。

 

いや、お前は悪くない。

それにしても、気持ちは分かるでござるが・・・

 

例えがあんまりにも、悪すぎるでござるよ・・・晋助・・・

 

これは、もう一度、スナックお登勢に行くしかない。

と、思った。

 

 

End

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